ランエボ8のクラッチ交換と、折れたボルトの除去|フランス人メカニックがやってきた

入庫したCT9Aランエボ8こんにちは、ゆうき(児玉)です。HRSに入ってまだ日が浅い、フレッシュマンです。趣味は釣りと車とバイク。

今回はランエボ8(CT9A)のクラッチ交換の話を書きます。で、この作業をやったのは、私じゃなくて新しく来たテオさん。私は横で写真を撮る係でした。

「どうせバラすなら」から始まった

錆が進んだランエボ8のエキマニまわりオーナー様は英語圏の方で、やりとりは全部英語のメール。毎日の通勤や街乗りに使っているランエボ8です。

最初のメールの相談は4つありました。クラッチが滑り始めたから交換したい。エキマニとダウンパイプが錆びてきたから、外すついでにボルト・ナットを新品に。あと「どうせバラすなら」で、リアメインシールとトランスファーのシールも。

I would like to accomplish a couple of “while the car is pulled apart” tasks such as replacing the rear main seal and transfer case seals.
(「どうせバラすなら」の作業もいくつか。リアメインシールとトランスファーケースのシールも替えておきたいです)

ミッションを降ろすのって、それだけで大仕事なんです。同じところを二度開けないで済むなら、そのほうがいい。オーナー様、そこを分かってて最初から挙げてくれてました。

持ち込みのクラッチ、メタル?ファイバー?

組み付けたエクセディのクラッチカバークラッチは、ご友人から譲ってもらうエクセディのハイパーシングルを持ち込みたい、というお話でした。

持ち込みはOK。ただHRSからひとつだけ聞いたのが「ディスクはメタル?ファイバー(オルガニック)?」ということ。毎日乗るクルマだと、ここで乗り味が全然変わるからです。ファイバーなら街中でも純正っぽく扱える。メタルはつながりがちょっと鋭くて、坂道発進は半クラを丁寧に。昔の強化クラッチほどじゃないので、普段使いでもいけます。乗って帰る前に知っておいてほしかった、というわけです。

それと、中古のクラッチは正直おすすめしない、とも伝えています。どれだけ残ってるかは現物を見ないと分からないし、持ち込み品は保証できない。ミッション降ろしを二回やったら、かえって高くつきます。

……と思っていたら、メールで届いた写真は箱に入ったままの新品(ハイパーシングル VF)でした。中古の心配はそこで取り下げ。VF は、ディスクの摩擦材(フェーシング)にオルガニックとメタルを組み合わせた複合構造のモデルで、メーカーは、快適なドライビングフィールのまま連続走行にも応えるクラッチだと説明しています(エクセディ公式)。メタルかファイバーか、の答えは「両方」だったんですね。

部品が揃うまで乗っていてもいいですよ、とも伝えたんですが、「完全にダメになってレッカーになるくらいなら」と早めの入庫になりました。

ミッションを降ろして、クラッチ交換

降ろしたミッションと新しいクラッチ ランエボ8の下回りで作業するテオさん リフトの下でミッションを外すテオさん

リフトの下でミッションを降ろしていくテオさん。クラッチを替えて、ミッションを載せるところまで進みました。途中で「進み具合どう?写真ある?」とお客様からメールが来たので、写真付きで返しています。

ちょうどシルバーウィークで、エキマニまわりのボルト・ナットの入荷が連休明けとなりますが、ご希望の日程には間に合わせます。

That’s good news. Thank you for the pictures and the update.
(いい知らせです。写真と報告ありがとう)

遮熱板のボルトが、折れてた

エキマニのフランジまわりの錆 錆びて固着したエキマニまわりのボルト ターボを降ろす前のランエボ8のエキマニ

エキマニまわりのボルトを新品に替えようとしたら、エキマニの遮熱板を留めているボルトが、すでに何本か折れていました。

これ、車に載せたままだと抜けません。ちゃんと抜くなら、ターボとエキマニを降ろして、残ったボルトを取り出して、ねじ山を切り直す。写真を付けてオーナー様に見てもらって、選択肢を2つ。

  • ターボとエキマニを降ろして、折れたボルトを抜いてねじ山を直す:ターボを降ろすのでエンジンオイル交換込み。お渡しは週明け
  • 折れたボルトはそのまま、手が届くところだけ新品にして組み戻す:お渡しは翌日。折れたボルトはそのまま、問題の先送りになるだけ。

どっちでも大丈夫です、と添えて。返ってきたのはこれでした。

I understand the situation and I prefer to do it properly.
(状況は分かりました。きちんとやるほうがいいです)

ターボとエキマニを降ろす

エキマニを外したランエボ8のエンジンルーム 車から降ろしたターボとエキマニ 車に付いた状態のターボまわり

降ろしにかかったら、固着が想像以上(平山さんいわく 古くなったランエボあるあるだそうです)日付をまた約束するより、いまの状態をそのまま伝えることに。「時間と根気のかかる仕事です。最後までちゃんとやるので、任せてください」。

I will gladly bear with you and honestly I was kind of suspecting something like this. I knew the parts were seized.
(喜んで待ちます。正直、こうなる気がしてました。固着してるのは分かってたので)

オーナー様、薄々分かってたみたいです。

折れたボルトを抜く、という仕事

タップでねじ山を整える 電動ドリルで少しずつ掘り進める 万力に固定したエキマニで折れたボルトに穴をあける

ここからがテオさん 腕の見せ所!私はこの作業も、横で写真を撮りながら見ていました。正直、こう思いました。

  • 折れたボルトなんて抜けるの?
  • 折れたボルトの断面の真ん中を正確に狙うことはできるのか?

平山さんいわく「自分がやると簡単そうに見えるかもだけど、慣れとコツが必要で難しいよ」。教わったことを、ざっくり書いておきます。

まず、真ん中に穴をあけるのが難しい

折れたボルトを抜くには、折れた断面のできるだけ真ん中に穴をあけます。でもポンチを打つ時点でずれやすいし、ドリルで掘っててもぶれる。一発で押し切らずに、当てて、見て、直して、また当てる。真ん中からずれると、ボルトじゃなくて相手側のねじ山を削っちゃいます。そうなったら戻れません。

ドリルの刃をなまらせない

強く押しすぎたり、長く回しすぎたりすると、刃先が熱くなって切れなくなります。手ごたえで加減しながら、切削油で刃先を守る。慣れてないと、真ん中からずれるか、せっかくのいいドリルをすぐダメにしちゃう。道具がよければOK、って話じゃないんですね。

道具ごとにコツが違う

ボール盤なら回転数。電動ドリル(今回はこれ)なら、引き金の引き方と送りの速さと力加減。ここは経験の差がモロに出るそうです。エアドリルならエアの量を調整します。

ねじ山を直すのにも、コツがいる

タップやダイスでねじ山を直すときも、力加減と、まっすぐ入れるのがコツ。慣れてないとドリルやタップ自体を折っちゃいます。硬い工具はボルトみたいに削れないので、そうなるともっと大変。失敗すると元より面倒な作業が増える……この仕事を避けたがるお店があるのも、分かる気がします。

タップで修正しきれないねじ山は、リコイル(ねじ山を補修するコイル状の部品)できっちり直します。

リコイルで直したねじ山 リコイルを入れてねじ山を直す ねじ山を補修するリコイルと専用工具

地味だけど効くやつ

浸透潤滑剤と切削油などのケミカル固着をゆるめる浸透潤滑剤と、穴あけのときの切削油。地味だけど、ないと始まりません。写真は左から、ワコーズのラスペネ(浸透潤滑剤)、ワコーズのTHC(スレッドコンパウンド)、ステンレス用のドリルオイル、ステンコロリン(金属用切削油・タッピングスプレー)。

折れたボルトをそのままにして組み戻すこともできました。それでもクルマは走ります。でも次にエキマニまわりを触るとき、同じところで同じ作業がまた要る。オーナー様は「きちんとやるほうがいい」を選んで、HRSはそれを引き受けた。そういうことです。

スイスから来たフランス人メカニック、テオさん

テオさんと代表の平山さんこのボルトと格闘していたのが、テオさん(Théo)。フランス人で、2026年9月からHRSで一緒に働いています。折れたボルトのリカバリー、実はテオさんも初めてらしい。平山さんが横について、ひとつずつ進めていました。

地元はスイス北西部、ジュラ州のポラントリュー(Porrentruy)。フランス国境に近い、フランス語圏の町です。本人いわく「めっちゃ田舎」。でも調べたら、1527年から1792年までバーゼル司教公が住んでいたお城がある、歴史の長い町でした。全然田舎じゃない気が……。

今のポラントリュー城とレフー塔 空から見たポラントリュー城 1690年の銅版画に描かれたポラントリュー

左から、1690年の銅版画に描かれた町(上の「BRUNTRUT」はドイツ語での呼び名)、空から見たお城、今のお城と丸い塔。300年以上前の絵と、今の姿がちゃんとつながってます。

テオさんはスイスで メカニックの資格を取得して フォルクスワーゲン専門ガレージで、3年間見習いをしてきました。日本が大好きで、HRSを知ったきっかけはサイバーエボの動画だそうです。

私から見たテオさんのことも書いておきます。

始めましての印象は強面で背が高く、体格良い印象で正直少し怖かったです(すいません)

私自身、英語は難しく、わからないもので、苦手意識がありました。

しかも、テオさんは日本語がほとんどわからず会話をすることがとても難しい状況でした。

ですがここで一度考えました、このままでは テオさんと一緒に仕事をするどころか世間話すらできないと。

そこで私はフランス語を少し勉強し、彼からもフランス語を会話の中で教えてもらうようになりました。

それからテオさんも日本語を覚えだし、「ありがとう」「おつかれさまです」と言ってくれるようになりました。

まだまだフランス語も英語も下手ですが、彼と共に言葉を教え、教わり言語のスキルアップを目指そうと思っております。

テオさん本人にも聞いてみました。答えは本人が日本語にしてくれたものを、そのまま載せます(カッコの中だけ、私が補いました)。

Q. 固着で根気のいる作業だったと思います。作業していてどう感じましたか?

それは多くの忍耐を要する仕事でした。そして、私は全く忍耐強い人間ではありません。作業中に何か問題があると、少し怒りやすくなります。この場合、この仕事のために時間を取って適切に作業しました。ドリリングやタッピングなどはあまりうまくできません。しかし、平山さんは私を導いてくれました。

Q. 折れたボルトの除去とねじ山の修正は、やってみてどうでしたか?

作業自体は非常に簡単で、前に述べたように、適切にドリルとタウ(タップのこと)を行う時間を割くだけで、適切な工具で過度に複雑になることはありません。ただ、良い作業を行うために時間を割くだけです。平山さんが私に指示し、正しい方法を示してくれました。

Q. 今回のオーナーさんと、HRSのお客様へひとこと

結果に非常に満足しており、クライアントの意見によれば、相互的な感覚です(お客様も同じように満足してくださっている、という意味です)。このような復帰(お客様からの反応のこと)を見ると、嬉しく思います。そして、このまま続くことを願っています。この種の車に取り組むことを楽しんでおります。

作業のあと、平山さんが私とテオさんにこんな話をしてくれました。まず自分が説明しながらやって見せて、同じ作業をテオさんにやってもらった。真ん中に微調整しながらドリルを当てていくことも、穴をあけるときの力加減も、感触や手応えの話だから、言葉だけではなかなか伝わらない。簡単そうに進める自分と、いざやってみると思うようにいかないギャップに、苦戦したと思う、と。

それと、「本人は短気だと言っていたけど、根気よく地道に進めていたのが印象的だった」とも。ランエボオーナー様からは「素晴らしいメカニック」という言葉もいただきました。テオさん、とても喜んでいました。

テオさんのくわしい紹介は、また別の記事で。

ポラントリューの画像(左から):Christoph Riegel「Bruntrut」1690年・チューリッヒ中央図書館 版画・写真アーカイブ所蔵(STF XII, 31)・パブリックドメイン(Wikimedia Commons)/Nerijp(Wikimedia Commons・CC BY-SA 3.0。加工後の画像も同じライセンスです)/Roland Zumbuehl(Wikimedia Commons・CC BY 3.0)。いずれも大きさ・明るさ・周辺のぼかしを加工しています。

仕上げに、ACDフルードのエア抜き

トランク内でACDフルードを補充する作業 診断機のACDエア抜きの画面 三菱自動車の診断機をつないだ車内

ランエボ7以降のクラッチ交換では、ACD(アクティブセンターデフ)のフルードの作業がセットで必要です。これには三菱自動車の診断機が要るんですが、HRSにはその設備があります。診断機をつないで、画面の「アクチュエーターテスト」からACDのエア抜きをして仕上げました。

9月30日、お引き渡し

組み付けたエキマニまわり部品が1日遅れて届きましたが、お渡しの日はそのまま。前の日にはオーナー様からこんなメールが。

Please take your time tomorrow.
(明日はどうぞ急がないでください)

作業を終えたランエボ89月30日、お仕事終わりに引き取りに来てくれて、無事お引き渡しです。

オーナー様からのクチコミ

後日、Googleのクチコミに★5をいただきました。そのまま載せます。

Lancer Evolution VIII clutch replacement: At first I was skeptical by the reviews of the shop but that was quickly gone when I got in touch. They reached out consistently with emails almost every day including pictures of the progress of the work. They accomplished the task in a timely manner despite the arduous work. Excellent communication and fantastic mechanical skill. This shop clearly had an affinity for lancer evolutions and it showed. I will definitely be going back for other things on my evo.

(訳)ランサーエボリューションVIIIのクラッチ交換。最初はお店のレビューを見て半信半疑だったけど、連絡を取ったらその不安はすぐ消えました。ほぼ毎日、作業の様子を写真付きでメールしてくれた。骨の折れる作業だったのに、予定どおりに仕上げてくれました。やりとりも整備の腕も最高。ランエボが本当に好きなお店なんだと伝わってきました。このエボのほかの作業も、またここに頼みます。

「ほぼ毎日、写真付き」の写真は、私が撮っていたものです。ありがとうございました!

ランエボのクラッチ・ミッション・排気系の相談はガレージHRSへ

ガレージHRS(横浜市都筑区・第三京浜 港北インターから5分)では、ランエボをはじめスポーツカーのクラッチ・ミッション・排気系の整備をまとめて相談を受けています。錆びて固着したボルト、折れたボルトの除去も、まずは相談してください。

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