横浜のチューニングショップ GarageHRS の代表が、AI の Claude(クロード)を仕事に使ってきた記録です。使い始めたのは今年の6月の下旬。それからの4か月で、Claude 自体もものすごく進化しました。2週間前の評価が、もう古くなってしまうほどです。だから月ごとに、そのとき何を感じたかを、そのまま書いておきます。この記事も、Claude と一緒に作りました。ただ、書いてあることは、自分の言葉で、自分が本当に思っていることです。
6月 AI すげえ
お店の規模からすると、本当は5〜6人いるのがちょうどいいのですが、なかなか人がそろわず、当時はベテランのチーフメカニックと私の2人で仕事を回していました。作業を優先すればメールの返事が遅れ、メールに力を入れれば作業が止まる。メールの返信は、もうパンクしていました。
何とかしたい。そこから、AI のことは何も知らないまま、手探りで使い始めました。
困っていることを相談すると、はい、わかりましたと言って、もう一瞬で、ああしましょう、こうしましょう、こういうことができますよって、自信満々に答えてくる。自分が時間をかけて考えた質問に、その100倍ぐらいのスピードで返してくる。AI すげえ。本気でそう思いました。
7月 「それはできません」と言われてから
これまで人が書いてきた返信メールをお手本にしながら、一件一件、AI に返信を手伝ってもらうところから始めました。思っていた以上に文章力がある。これはびっくりしました。
HRS の実務に合わせて、複数のスタッフが、それぞれのパソコンで同時にメールを返したい。チャットごとに分断してしまう情報を、横断的に共有したい。そう伝えたときに言われたのが、「それは今のシステムではできません」「できたとしても、1年以上かかる」。
AI が言うのだからそうのかなと思いつつ、何とかして工夫できないかな?、そう考えだした瞬間でした。チャット同士で話を引き継げないなら、自分たちで考えればいい。情報を伝える「サマリー」の仕組みを作りました。ところが、複数の人で同時に使ってみたら、処理の混線が起きてしまいました。これも Claude からは、「この仕組みは問題があるのでやめましょう」と言われました。でもあきらめたくなくて、どのパソコンのどのアカウントで使っているかを常に把握しながら並列処理を進める方法を考え、5台のパソコンで同時に使っても動く形にしました。サラリーマン時代に、全社の電算システムの開発に携わった経験が役に立ちました。
苦労して実現したその仕組みですが、その1か月ぐらい後には、Claude を作っている Anthropic(アンソロピック)の方でも、同じようなことができるようになりました。さらに最近のアップデートでどんどん進化して、あの苦労は何だったんだろうっていうぐらい簡単になりました。でも、そんな制約があった中で、HRS独自の仕組みを生み出したのは、自分としては誇らしいことだと思っています。
8月 出鼻をくじかれて、Claude に泣きついた
8月の頭には、たまっていたメールを Claude と一緒に全部洗い出して、優先順位をつけました。そのうえで、返信できないなりに、今の状況を正直にお客様に伝えることにしました。全員にメールを送る余力もなかったので、ホームページとブログでお知らせしました。一朝一夕では解決しないけれど、一つずつ確実に片付けていこう。そう決めました。
できないと言われたことを、工夫で実現した。さあ、これから効率よくこなしていこう。そう思った矢先の8月の中旬、仕事の要だったパソコンがトラブルに見舞われました。もともと手が足りない中で何とか回していたところに、仕事が一段と進まなくなった。元の状態に戻るまでには、2か月ほどかかりました。
目の前の仕事をひたすら片付けるしかなく、優先順位付けも考えられない状況。これはもう人だけで乗り越えるのは無理と思って、Claude に泣きついたのです。
そこで、全体の交通整理をする「司令塔」役のチャットを作りました。今やらなきゃいけないことを一回全部棚卸しして、優先順位をつけて、まずこれをやりましょう、と一緒に進める。最初は、何がたまっているかを Claude に伝えることさえできず、落ち着くまでに1か月ぐらいかかりました。10月には返事を順に再開していることを、ホームページで報告できましたが、これを人の手だけでやったら、何倍も時間がかかったと思います。
9月 なんだよ、人間みたいじゃん
すごく優秀で間違えないと思っていたのに、使い込んでくると結構人間みたいだな、と思う瞬間も増えました。
メール返信のルールを何度作っても、思った通りに動いてくれない。「ねえ Claude、これってルールに決めたはずなんだけど」と聞くと、「ごめんなさい、ルールにちゃんと書いてありました。忘れちゃいました」「効率よく早く返信することを優先しすぎて、ルールを読むのを飛ばしちゃいました」。
なんだよ、これ。人間みたいじゃん、Claude。
AI もプログラムの塊なので、決めたことはしっかり守ってくれるものだと思っていたのです。でも実際は、間違えたり、抜け落ちたりする。なんでだろうと、しばらく悩みました。そしてある時、ふと思いつきました。あ、これは AI がバカだからじゃない。優秀すぎるからだ。メールを読んで返信文を作るようなことは、教わらなくてもできちゃうんですよね。だから決まりを読む前に、先に手が動いてしまう。
10月 AI が悪いんじゃない、伝え方だ
待てよ。これは AI が悪いんじゃない。人の指示の仕方が悪いんだ。そう思い立ちました。
いまは、なんで困っているのか、どういうことがダメなのか、なんでそうしたいのかを、なるべく具体的に伝えるようにしています。そうしたら、「平山さん、そういう意図だったら、こうした方がいいんじゃないですか」と、どんどんいいアイデアを出してくれるようになりました。
特に日本人は、空気を読んだり、言わなくても察してしまったりするじゃないですか。でも AI には、「察してよ」とか「いい感じにしてよ」は伝わりにくい。人間の方がちゃんと言葉にして伝えないと、出てくるものがぶれてしまう。
言い方の問題もありました。AI はまっすぐに言うので、自分でも「怒られてるのかな」と感じる瞬間があったんです。このままスタッフに使ってもらったら、責められているように感じる人もいるだろうな、と思いました。そこで、人が萎縮しないような、やさしい話し方をするように、Claude の決まりを直しました。やってみたら、効果がありました。
それでも、まだ足りないと感じています。人の世界では配慮して当たり前に察することも、事務的かつ厳格に扱ってしまうことがあります。AI は安全な方へ倒すようにできているので、こうしてはいけない、守らなくてはいけない、そんなルールに引っぱられるんだと思います。
そして 本当に AI をうまく使えるかどうかは、人間にかかっているのかな。今はそう感じています。この話は、また次の回で書きます。
4か月前の自分へ
振り返ると、この4か月でやってきたことは、チューニングと同じだったのかもしれません。
HRS を始めた時、看板になるデモカーを作ろうという話になりました。当時のタイムアタックは、名だたるショップの500馬力を超えるスーパーマシンばかり。目標は筑波サーキットで1分フラットでした。でも、名前も実績もない HRS が同じことをしても、差別化にはならない。そこで、普通にお店で売っているパーツを使い、車全体のバランスで戦うことにしました。企画は「ランエボ ノーマルタービンのブーストアップで1分フラット」です。その挑戦がどうなったかは、また別の記事で紹介します。
まずはノーマルの状態でパワーを測って、それを基準にするところから始めました。試して、確かめて、なぜそうなったかを考えて、一つずつ前に進める。AI との付き合い方も、それと同じでした。
いまの自分が、4か月前の「AI すげえ」と言っていた自分に言いたいこと。
AI も人間も、間違えることはあるよ。だけど、ちゃんとじっくり正しく話せば、解決策は見つかるよ。








